みなさんはアイディアを出すときや、物事に行き詰ったときにはどうしますか?
人に聞いたり、ディスカッションしたり、ブレインストーミング、マインドマッピング…といろいろと試した経験がある人は多いのではないでしょうか。
今回は、発想の転換でアイディアを広げたり、課題を発見したり、未来予測をしたり、或いは自身のスキル向上や成長、営業やネットワーク作りなどにも幅広く使える「対極の発想」をご紹介したいと思います。
簡潔に言うと、「常にものごとの逆のことを考える」ということなんですが、逆のことを「対比しながら」考えるということが重要です。
また、行き詰ったときなどにはもちろん役に立ちますが、「常に」というのがポイントで、常に「逆」を意識することによって発想の幅が飛躍的に広がります。
考えてみてください。 普通の人が1つのことを考えているときに、あなたはそれと逆のもう1つことも考えるのです。単純に考えると発想の幅は2倍になります。
これは、実は世間で頭がいいと言われている人はよくやっています。
堀江貴文氏や西村ひろゆき氏が「逆張りの人」と揶揄されることが多々ありますよね。
彼らは「対極の発想」で物事を考えているからです。
私もこの発想で事業を創り出したり、これからのビジネス状況を考えたり、自分自身の指針にしたり…と普段からよく活用しています。
今回は、「対極の発想」がどういうものか、どのように役に立つかを見てみましょう。
事業アイディアの創出
ものごとにはメインストリームとニッチ、グローバルとローカルといったように対比されるものが存在します。これらを「入れ替える」、或いは「組み合わせる」ことによって事業アイディアを創出するのです。
これは、普段から意識することによって視野が広がり、発想も広がります。そして、実際にビジネスの創出に役立ちます。
「入れ替え」のわかりやすい例だと、顧客を入れ替えるといったものです。 男性用商品を女性用にしてみる、人間用をペット用にしてみる、国内の人を海外の人に置き換える…といったものです
プロダクトそのものにおいても当てはまります。高級ラインか廉価版か、ハイエンド・ローエンドなんていうのは典型例かと思います。
近年ではAR/VRが発達してきていますので、リアルからバーチャルへの入れ替えはどんどん起こっていくでしょう。例えば、このコロナ禍において、スポーツ観戦や劇の観賞、ライブ、その他エンターテイメントをバーチャル化するようなニーズは劇的に高まっています。
「組み合わせ」でわかりやすい例ですと、レガシーとデジタルという対極の組み合わせはわかりやすいかと思います。
例えば、最近私がかかわっている会社で考えていることは、冠婚葬祭業界のデジタルトランスフォーメーションです。伝統やレガシーが存在する業界こそデジタルで効率化、ディスラプトできる要素がたくさんあります。
最近では、若者は冠婚葬祭にお金を使いたくないという意識が高まってきており、特に葬儀業界では、簡易的な葬儀や、葬儀を行わない直葬などが増えており、効率化が進み、デジタルも取り入れられるようになってきています。
詳しくは言えませんが、ウェブサービス、プラットフォーム、AIによる解析などをこのような業界に取り入れて商機を見出そうとしています。
他にも、過去に農業とIoTを組み合わせて事業開発を行ったことがあります。近年では、IoTによる温度や湿度などの栽培状況の管理が広まっており、データ化、マニュアル化によって農業が素人にもできるようになるような動きがあります。
伝統工芸や熟練の技が必要とされる産業においても、デジタルを組み合わせることで、3Dモーションキャプチャーで計測したり、手指の力覚をセンシングして数値化したりすることによって、暗黙知として職人の頭の中に蓄積されていたものを形式知化して技術継承やスキルの習熟に役立てることが可能です。
普段から常に対極の発想をすることによって、様々なことに意識が向くようになります。
例えば街中を歩いていて、植林なんかを見ると、都会に住んでいる人は、逆に自然を求めているのだなというのがわかります。都会の高層ビルの屋上に庭園があったり、オフィスの中には観葉植物を置くといったように「都会に自然を作る」ことが増えています。 例えばそのときに、では逆に「田舎に都会的なものを作るには?」と考えるのです。
別の例を挙げると、コロナ禍で人々は自宅に滞在する時間が多くなり、自宅での消費やコンテンツなどに目が行きがちですが、家中ではなく、逆に「外で安全に遊べるものは?」と考えます。実際に、この状況においてソロキャンプや釣りなど一人でやるアウトドアは盛り上がっています。
課題の発見
対極の発想を実践することによって、物事の本質がわかるようになり、本質的な課題発見ができることもあります。
「シニアの活用」=「ジュニアの理解」
例えば、日本は人口が減少しており、少子高齢化社会ですので、「シニアの活用」が脚光を浴びています。
シニアの活用とは、不足している職種でシニアの方を雇い入れて不足人材を補う、或いはシニアの方が培った経験、ネットワークなどを生かしてアドバイザーなどとして働いてもらうといったようなことです。
企業は、シニアの活用ばかりに焦点を当て、シニアの方を受け入れるために、シニアセントリックな職場にするといったような施策をとりがちです。
シニアに活躍してもらうには、同時に「ジュニアの理解」が必要でしょう。 大切なのはシニアに頑張ってもらうことと同時に、既存社員、特に若手社員との調和です。シニアセントリックな職場となり、若手社員のモチベーションを低下させて、若手が離れて去っていってしまえば元も子もありません。
環境が悪いのではなく、自分が悪い よく日本のスタートアップが世界で成功しないのは、「日本のスタートアップエコシステムが成熟していないから」とか、「政府の取り組みがダメだから」、或いは「日本は失敗を許容しない文化だから」などといったことが聞かれます。 或いは、JPOPがKPOPのように世界で受け入れられていないのは「政府の後押しがないからだ」というようなことが言われます。
要するに、うまくいってないのは日本が悪いみたいな論理です。
本当にそうでしょうか?上記のようなことは要因の一部であるとは思いますが、本当の原因は「企業」、或いは「自分」にあるはずです。
自分自身がグローバルに戦える実力を持っていないから、或いは企業における創意と工夫が足りないからではないでしょうか。
一昔前は日本のエレクトロニクスが世界を席巻していましたが、それも衰退し、日本はまったくダメになったかというとそうでもなく、日本のサプライヤーやニッチ分野のプレーヤーなどはグローバル企業が存在しています。音楽・エンタメ業界でも、ある特定ジャンルの日本人のトップアーティストは数多く存在しています。
世界に受け入れられている人や企業は「日本のエコシステムがダメ」、「日本の政策がダメ」とは言わないはずです。
そのほかにも例を挙げるとすれば、
「売上が上がらないので新規顧客をもっと獲得しなくては」と言っている企業、営業担当がたくさんいます。 本当にそうですか?少し分析してみると、新規顧客ではなく、既存顧客に焦点を当てて、顧客のリテンションやさらなる付加価値提供でライフタイムバリューを上げたほうがいいというような結論に至ることは多々あります。
また、他の例を挙げると、「年収を上げるためにもっと働かなくては」という人がいます。 「もっと働く」のではなく、「いかにして働かないか」、つまり時間あたりの効率をどう上げるかを考えるべきです。
もっと言えば、年収を上げたければ逆に「年収という考えを捨てる」ことが大切です。多くの成功者がそうだと思いますが、彼らの多くはお金を稼ごうと思ってお金持ちになったわけではないですよね?孫正義さんも三木谷さんもお金を稼ぐのではなく、世界を変えるとかみんなそういう発想です。 私も、外資系のサラリーマンを辞めて年収という思考を捨てた途端に結果的に収入は数倍になりました。
このように、課題特定、課題設定にも対極の発想が役に立つのです。
未来予測
対極的な未来シナリオ ~中央集権と分散~
今は、企業も個人も「Winner takes all」の世界です。言い換えると富がごく少数の個人、或いは企業に集中する超格差社会です。
最近、GAFA+Microsoftの時価総額が東証一部の時価総額を超えたことで日本国内には衝撃が走りました。わずか5社が東証一部2000社よりも価値があると市場に評価されているのです。
今後、さらにGAFAMのような先進的な巨大企業によって支配される世界が加速していくという見方がありますが、逆に「中央集権型から分散型」になっていくという見方もできます。
こういったGAFAMのようなプラットフォーマーには、顧客の重要な情報が集約されており、サイバー攻撃を受けて情報が流出してしまうといったプラットフォーマーの弱点も指摘されており(実際にFacebookの登録者5000万人の情報が流出する事件もありました)、ブロックチェーン型のトークンエコノミーの有用性が説かれています。
また、足元のビジネスにおいても、例えばAmazonからものを買うときに「出品者から買う」というよりも、「Amazonから買う」という意識の人が多いと思います。
そうすると、出品者のブランディングがしにくく、リピーターも獲得しずらいというような問題があり、自社の商品を出品するためのマーチャント別の販売サイトに回帰するという動きもあります。
別の例を挙げると、現在は個人、企業のウェブサイトを構築する際にWordpress、Wix、JimdoなどのCMSツールを使用することが一般的ではないでしょうか。
コーディングスキルがなくてもビジュアルUIで感覚的に操作でき、またデザインもテンプレート化されており、すぐにウェブサイトの構築ができます。
しかし、みんながこれらのテンプレートを使用してウェブサイトを構築した結果、だいたいウェブサイトがどれも同じように見えるといったような問題があり、よりオリジナリティのあるテーラーメイドなものを作っていくというような動きもあります。
このように、Centralized(中央集権)とDecentralized(分散)の対極の2つの世界観が未来予測のシナリオとして描けるというわけです。
対極化する未来 ~メインストリームとカウンターカルチャー~ 別の例を出すと、少し前に、とある起業家の方にお会いしたときに、「スタートアップエコシステムは東京じゃなく関西で発展する」というようなことをおっしゃっていました。
これはどういうことかというと、世界中見渡してみると、一つの国・地域に保守的な本流の産業が存在する都市があり、それに対してのカウンターカルチャーとしてテクノロジークラスターができるというものです。
例えば、アメリカでは、経済の本流のニューヨークとテクノロジークラスターのシリコンバレーなどがあるサンフランシスコで東と西に分かれています。イギリスでは、本流の経済の中心地はロンドン、一方で最新のテックはケンブリッジなどから生まれてます。
なので、日本は本流が東京だとしたら、カウンターカルチャーで最新のテックが生まれる場所は関西だということです。
これはなかなか興味深い考察だと思ったと同時に、私はロンドン在住なのですが、都市の中でも本流とカウンターカルチャーが生まれているな、と感じました。
例えば、ロンドンの中でも、金融街のシティと新しい文化やファッション、テックスタートアップなどが生まれるショーディッチのような地区があります。 ニューヨークでもそうですね。ウォール街は金融の中心ですが、その近くにマイケル・ブルームバーグの政策でコーネルテックを誘致したりと、ニューヨークにテックシティとしての側面も持たせようとするような流れもあります。
このように、世間一般で言われている未来の逆を考えたり、メインストリームの常に逆を考えることによって違った視点で未来予測が可能になります。
自身のスキルアップや成長
対極の発想は、自身のスキルアップや成長といったことにも活用できます。
対極のことを学ぶ
代表的なものは、「アートとサイエンス」という一見すると両極端な分野を学ぶことが重要であるということが言われています。
日本では文系・理系とはっきりと分かれてしまっていますが、アメリカではリベラルアーツ教育で両方学びます。
スティーブ・ジョブズは、サイエンス(テクノロジー)とアート(カリグラフィー)の両方に造詣が深く、それがApple製品の革新的なデザインやサービスの特徴に表れていると言われています。
ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグは天才プログラマーであると同時に熱心な歴史の研究家でもあります。
このように、成功している人はアートとサイエンス両方の見識がある人が多いです。
対極のキャリアを考える
これからの時代は、「何かの専門性を身に着けたエキスパート」でないと生き残れないとよく言われますが、そうすると、逆にエキスパートたちを結び付けてカタリストのような役割を担う「ジェネラリスト」の存在も重要になってくると思います。
私は、他の記事(新しい働き方 ~何してるかわからないけど年収2000万~)などでも常々書いていますが、スーパーエキスパートとスーパージェネラリストどちらも求められているし、どちらかにならないと生き残れないと思っています。
スーパーエキスパート 特定の領域に特化した高度な専門家人材。有名大学でPhDを取得したAIエンジニア、ブロックチェーンエンジニア、サイバーセキュリティスペシャリスト、データサイエンティストなど
スーパージェネラリスト 技術・ビジネスに深い理解があり、エキスパートたちの力を組み合わせてビジネスを作れる人、或いは既存のビジネスの改善ができる人。ビジネスプロデューサーやカタリスト
ネットワーク作り
人脈を増やそうとするなら一人になれ
あなたの周りに「人脈を広げたい」と思って交流会やセミナーに参加しまくったりしてる人はいませんか?もしくは、あなた自身がそのような行動をとったことはありませんか?
「人脈を広げたい」という人がよくいますが、「成功している人に乗っかりたい」という自分は頑張りたくないけど他人に頑張ってもらって自分も成功の輪の中にいたいというような人や、「すごい知り合いを作ってビジネスにつなげたい、或いは周りに自慢したい」といった誰かを利用したいというような考えで動いている人達が多いです。
巷で開催されているような多くの交流会やビジネスセミナーなどはそんな人同士が集まり、そんな人同士がつながっているのであまり意味がないことが多いようですですが。
成功しているすごい人はそんなところに顔を出しません。仮にいたとしても、その人からしたら得るものがないので親しい仲にはなれません。
基本的には、成功している人達はエクスクルーシブなコミュニティで繋がっているか、そこから派生した俗人的な繋がりで繋がっているかです。
エクスクルーシブなコミュニティというのは、アメリカの大学などではフラタニティなど友好団体によってエリートネットワークが形成されているのが典型例ですが、日本でも例えば海外トップスクールのMBA生などは同じくらいの時期に留学した人は別の大学であってもだいたいつながってます。そういったコミュニティで知り合った人達が人を紹介しあってどんどん広がっていくようなイメージです。
そもそも「人脈を増やす」という発想が間違っているのです。
何か自身のやりたいことを必死にやっていたら自然と知り合いが増えていくものです。
なので、人脈が増えない、と悩んでいる人は、人脈を増やそうとするのではなく、一人になってみてください。
一人になって自分自身を見つめなおして、自分は何が得意で、何がしたいのかを考え、それを実現するためのスキルを磨き、経験を積んでください。そうすれば、その過程で必ずかけがえのない師や同胞に会えるはずです。
営業は対極の人の信頼を勝ち取れ
あなたが営業だとしたら、プロダクト・サービスを売り込むために先ずは決裁権者にたどりつくことを考えますよね?
あるいは、あなたが企業、広告代理店のプロモーション担当者で、超有名なインフルエンサーを使ってマーケティングをやりたいとしたら、インフルエンサーにアプローチすることを考えますよね?
私は学生の頃に数か月の間、通信機器の営業をしていたことがあります。
法人営業のやり方はたくさんありますが、決裁権者にたどり着いてモノを売り込むというのが一般的でしょう。
確かにその通りだとは思いますが、私は、どうしても顧客にしたい企業に対して、その企業が運営する店を一軒一軒周り、顔を覚えてもらい、定期的に訪問して関係を築き、店舗の中でも本部とつながりの強い人を見つけ、その人を通して本部に話をしてもらい、結果的にその会社に商品を導入いただくことができ、私のチームが営業成績No.1を勝ち取ったという経験があります。
私の周りでも受付嬢と仲良くなったら部長や社長につないでもらうことができた、なんていう話も聞いたことがありますし、時間はかかるけどもトップをいきなり攻めようとせず、対極である末端から攻めるというやり方が有効な場合もあります。
また、別の例を出すと、私がかかわっている企業で実際にやっていたことなのですが、新商品を開発したのでプロモーションをやるときに、その一環で某有名タレントに広告塔になってもらいたいと考えました。有名タレントとはいっても、その企業が目を付けたのは世界的な超有名人です。
世界的な超有名人を広告塔にするなど普通は誰もが不可能だと諦めますよね。当然その企業も最初は門前払いでした。
そこで、その企業が何をしたかというと、その有名人からは離れた関係者から関係を築いていき、そしてその人のスタイリスト、次はマネジャーというように少しづつインフルエンサーに近づいていったのです。
結果としてその有名人を起用したマーケティングは大成功しました。
このように、キーパーソンなどに直接アプローチしようとすると門前払いを食らうケースが多いですので、一見遠いところから攻めていくというようなやり方が有効なときもあります。
まとめ
・対極の発想は「対比しながら」、「常に」意識して考える
・対極に位置するものの入れ替え(女性用⇔男性用など)や組み合わせ(レガシーとデジタルなど)で事業を創出するヒントに
・課題とされていた対極のもの(シニア⇔ジュニア、ミクロ⇔マクロなど)が本質的な課題である場合がある
・対極的な未来シナリオ(中央集権と分散など)、対極的化する未来(メインストリームとカウンターカルチャーなど)で未来を描く
・対極のことを学ぶ(アートとサイエンス)、対極のキャリア(エキスパートとジェネラリスト)を心掛ける
・対極の行動(人脈作り⇔一人になる)、対極の人の信頼(トップではなく末端)でネットワークを築く
いかがでしたでしょうか。
常に対極のことを考えて生きることで発想が単純に倍になります。
また、人と違う視点を持っていたり、まったく別の方向からの意見を言うことで会社内でも重宝されるはずです。
ぜひこの対極の発想を実践してみてください。
筆者
西垣和紀
高校中退後、数年間仕事を転々とした後、渡米。アメリカの大学を卒業後、外資系コンサルティングファームに入社し、大企業の戦略策定、M&A、業務改善、新規事業創出などに従事
その後、オックスフォード大学MBAを経て、ロンドンのスタートアップで事業責任者、外資系企業のCOO(最高執行責任者)などを歴任し、現在はヨーロッパと日本を行き来しながら様々なビジネスの立ち上げや企業のアドバイザーとして活躍
また、音楽活動をしており、アメリカ西海岸のレーベルと契約、海外フェスへの出演やイギリスのトップアーティスト「ピクシー・ロット」などと共演
カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)マネジメントサイエンス専攻 オックスフォード大学サイードビジネススクールMBA(経営管理学修士) ペンシルバニア大学大学院コンピューターサイエンス専攻
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